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2008年03月15日

進まない心

バーに行こうと思ったら、雨が「行くな」と降ってきた。ICE の Big Beat From The City を聴きながら、最後に残った McClelland's を空けてしまうことにした。

ふと思い立って、Youtube で Blue Moon のプロモーションビデオを探してみた。まぶしく光の当たった石垣島の映像を見ながら、まるで取り残されてしまったかのような国岡真由美は今どうしているのだろう、と、考えてしまう。

ICE はとても好きなユニットだった。なんで、過去形で書かなければならないのだろう。アルバムの中に収録されている全ての曲を気に入っているミュージシャンは、ICE 以外には存在していない。ギターの宮内和之が亡くなったのは、2007年12月18日のことだった。

その時自分は、行きつけのバーで飲んでいた。翌日はマスターの誕生日でもあり、私は自分でデザインしたドリンクチケットを、ちょうど一日が切り替わる瞬間を待って、誕生日プレゼントとして渡した。煌めく光のデザインにマスターはとても喜び、私も大きな達成感に包まれた。

喜びの中、私はいつもと変わることなく飲み続けた。時間はどんどん過ぎていく。1人また1人と、家へ帰る。そして、ある人が帰り際に、私にそっと耳打ちしたのである。

「ICE のギタリストが、亡くなったそうですよ…」

それは、予想もできない衝撃だった。その2日前には、Dan Forgelberg も亡くなっていた。人は生まれる一方で、どこかへと知れずいなくなっていってしまうこともある。また会えることもあるのかもしれないし、もう二度と会うことがないのかもしれない。それでも今日の後に、同じような明日が続くことが当たり前だと思い込み、人は生きていく、というわけだ。

パートナーを失うとは、どんな気持ちなのだろう。自分には、想像することしかできない。この10年で、想像の力の大きさを十分にわかったつもりでも、それでも、パートナーがいない自分にとっては、そんなこと、本当にわかるはずもない。

Blue Moon の映像では、国岡真由美は宮内和之のことを見ていない。
宮内和之はサングラスをかけ、どこを見ているのかすら、わからない。

Wikipedia によれば、二人は宮内和之の晩年に結婚したそうである。宮内和之の5年間闘病生活。その時間の流れを考え、国岡真由美の心を推し量ってみても、思考はただ上っ面を滑っていく。

曲は次々と切り替わる。Blue Moon から Night Flight 、そして Sherry My Dear へと、次々と私はクリックを重ねる。ライブ映像を見て、私は強烈に自覚する。クリック。Baby Blue。宮内和之と国岡真由美のツインリードボーカル。

私は強烈に自覚する。少し前から、わかっていたこと。クリック。Love Makes Me Run。どこか似ているんだ。国岡真由美は。

クリック。Slow Love。McClelland's は既に空になり、私はずいぶん前に冷凍庫に入れておいたイェーガーマイスターを取り出し、ショットグラスに満たした。

こういう飲み方をする時、酒は感覚を麻痺させることはできても、心を満たすことはない。あまりほめられた飲み方ではない。イェーガーマイスターを選んだあたりに、健康へのくだらない気遣いがみてとれる、というわけだ。このような飲み方を重ねていくと、最後には、酒に飲まれてしまうのだから。

クリック。Kosmic Blue。クリック。Truth。

自分が望む、たった一言が聞けなかっただけで、心が離れていってしまうこともあるのだ。

クリック、So Into You。何回重ねたとしても、何も満ちることがないことは十分わかっているはずなのに。
posted by 成瀬隆範 at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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