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2008年03月01日

面影はポート・エレンに 4

前回の続き)


それは、Ardbeg 17年という名の、最高に美しく、そして、もう二度と会えないかもしれないシングルモルトの面影だった。

Ardbeg は、個性がはっきりしているシングルモルトウィスキーの中でも、更に強烈な個性を持ったウィスキーをつくり出すアイラ島の蒸留所で作られたシングルモルトである。そして、そのアイラ島のシングルモルトの中でも、特に個性的で強烈なモルトであるといって、間違いないであろう。

その個性は、非常に強烈な煙臭さ(スモーキーさ)にある。ウィスキーの原料である大麦麦芽を乾燥させる際の燃料である泥炭がウィスキーの香り付けと個性にかなり大きな役割を果たしているのだが、この泥炭の香りが Ardbeg は特に強く、豊かなのである。換言すれば、それはとてもキツく、臭いとも言えるのではあるが。

普通、見かけるのは、Ardbeg TEN(10年)である。一番の見慣れているのも、これだ。しかし、私が最も好んでいるのは、Ardbeg Very Young(6年)と、Ardbeg 17年だ。この2つのモルトは、ほぼ全く違った個性を持ち、それ故に、私を強く惹き付けるのである。

最初に飲んで一番衝撃を受けたのは、Ardbeg Very Young である。まだ6年しか熟成を経ておらず、非常に荒々しく、口に含むだけで、まるで京劇役者の剣舞のように、強烈な勢いで舌を攻めてくる。痛いほどの刺激の中で、しかし、その刺すような痛さののひとつひとつに、単なる荒々しさとは異なった、蓄積された力を感じるのである。まるで久方ぶりに好敵手を得たような、そんな高揚感を伴って鑑賞できるモルトなのである。

それに対して、ポート・エレンに面影を見た Ardbeg 17年は、極度に洗練されており、非常に「美しい」。どんなに辛い体験をしても、苦しんでいても、それを自分の中で消化し、受け入れ、表にははっきりと出さないでいるようでいて、内面の奥深さを予感させてしまうような、謙虚さがある。

私が「女性として」惚れてしまった美しさとは、それだ。たとえ内面はどんなに奥深くどろどろしていたとしても、それを感じさせないような、洗練された立ち振る舞い。それでいて、その奥深さを全く隠してしまうのではなく、危うさや、妖しさや、悲しさを予感させるような、ちょっとした仕草。私は、Ardbeg 17年を飲んだ時、それが、自分が女性に対していつも求めていた価値であることを、強烈に自覚せざるを得なかったのである。

酒は嗜好品である。だから、ひとつひとつの酒の間には、本来優劣など存在しない。存在するのは、ひとつひとつの酒の個性であり、その個性を自分が好きでいられるかという、たったそれだけのことである。

私は、Ardbeg 17年により、自分の理想とも思える女性像を、目の前に突きつけられたのである。そして残念なことに、もはや Ardbeg 17年を、普通のバーで見かけることはない。もはや殆ど、市場に流通していないと思われるのである。そして……それを人として、捉えた時にも。

しかし、その面影がまさに、友人の結婚記念日に迷い込んだバーで偶然飲んだ、ポート・エレンに映り込んでいたのだ。

次回へ続く
posted by 成瀬隆範 at 01:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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