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2008年02月23日

面影はポート・エレンに 1

昨年の今頃は、親しい友人の結婚式だったことを思い出した。とりあえずメールを送り、祝いの気持ちを伝える。試行錯誤しながらの共同生活を慮り、近いうちに飲もうと誘う。

なんとなく気持ちの定まらないまま、ふらっと降りた駅の近くで、1軒のバーに入った。よく行く駅ではあるのだが、範囲が広過ぎて、1軒1軒しらみつぶしにめぐっていても、まだまだ行ったことのない店がどんどん出てくる。そんな街。

前から目をつけていたバーだ。時間と金が無制限にはないから、なかなか行こうと思っていても行けなかった店。気持ちが定まっていなかったからこそ、財布の紐も緩む。看板に目を止め、行こうと思っていたことを思い出し、階段を下りて、扉を開けてみた。

琥珀色の店内。ただし、決して暗くはない。琥珀の中に光を透かしたときの、石の中で煌めく橙色。カウンターの奥には、ハードリカーの瓶が立ち並ぶ。ひとつひとつの瓶は全く異なった個性を持っていながら、まるで幾何学模様のように、透明感のある輝きを放つ。繊細で壊れそうなカクテル・グラスとのコントラスト。シェーカーの銀の輝き。くるくると回るバースプーンの、まるで終わりのない円運動。

偶然にも、同店は6周年で、ワンコインでたいていの酒を給するとのこと。普段はあるはずのハイスツールは全て片付けられ、スタンディングで酒を飲む。キャッシュ・オン・デリバリー。実に合理的で後腐れがなく、私の好きなスタイルだ。

1杯目を少し迷ったが、キャプテン・モルガンを頼むことにした。友人の結婚記念日に当てられたらしい。いくらハリーを気取ってみても、マリーは探せるわけではない。

目の前に出されたのは、背の高いキャプテン・モルガンではなく、背の低いプライベート・ストックだった。思わず声に出る。

「プライベート・ストックが、ワンコインとは、素晴らしい」

酒には、何も混ぜないのが性に合っている。氷ですらも。だから、たいていはチューリップの中の琥珀色の液体を、少しずつ減らしていく作業に徹することになる。

考え事をするには、ちょうどいい飲み方だ。喉を鳴らしていては、頭の中に、余計な音が反響してしまう。喉を鳴らすのではなく、まるで自分の口の中に最初から存在するように、琥珀色は少しずつ、自分と一体化していくのである。

次回へ続く
posted by 成瀬隆範 at 01:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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