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2009年11月13日

A大使館にて

今日は、某大使館の関係の仕事をしてきました。

戦争捕虜が制作した工芸品展示の手伝い。

そん中、ひとりの男性が来館。展示されている資料のキャプションに関して、クレームを入れてきたのです。

「なんで、こんなにこのキャプションのドイツ語は間違っているのか」と。

本気で怒っていました。唇が震えていました。でも、自分が直感的に分かったことがあります。それは、彼が、ドイツ語を、真剣に愛しているのだ、と、いうこと。

それはたかが、単数系/複数形の間違いだったり、"n" が "m" になっていたりという間違いだったりします。ふつうのひとだったら、適当に、見逃してしまうくらいの。

それでも、この日本に居て、その中でドイツ語のアイデンティティを保ち続けようとしている「先生」の、ドイツ語への愛情に、私はただ、圧倒されるばかりでした。

自分が今の職業をやっていて、一番違和感を感じること。それは、一般的には私が、「英語の先生」と、見なされることなのです。

私は、日本人だし、日本語を愛しています。日本語に比べると、英語は非常にリズム感に優れた言語ではありますが、深みに欠けています。優しさもありません。その意味では、同じアルファベット圏の言葉としては、日本語と共通する優しさを兼ね備えている、ポルトガル語が好きだったりします。

そんな自分が、英語を教えていながら、英語に対してまるで愛着も無いし、日本の国土に居ながらにして英語をぺらぺらしゃべることでステータスを保とうとする人たちを嫌悪しながら生きている自分に対して違和感を感じているその感情を、彼は、今更ながら痛感させてくれました。

いったい私は彼のように、日本語に対して真剣に怒ることが、できているのだろうか、と。

正直、うらやましく感じました。彼の思いを。

そして、その彼の感情を、適当に受け流してごまかそうとした大使館員の態度には、嫌悪感すら感じたのです。

大使館員という職業。それを考えれば、ドイツ語の間違いに本気で怒るよりは、なあなあですますことで、展示期間を波風立たずににこなすことが、大切なことだったのでしょう。それも一応、筋の通った考え方なのです。

しかし、自分の個人的な感情としては、明らかに、断言できます。

"So What?(それがいったいなんだってんだ?)"と言って肩をすくめた大使館員より、私は、小さなミスにこだわろうとした、その「先生」の、ドイツ語に対する愛情が好きです。

上辺を取り繕うよりも、自分の思いを素直に出してきた、あの老人のまっすぐな目。彼は、自分が大学時代に見た、ドイツ哲学を真剣に愛し、いつも少年のように目を輝かせながらドイツ哲学についての話を重ねていた先生の、真剣に何かを愛してしまっていた人特有の目を持っていました。

"Honesty" は、あの人の目の中に、存在しているみたいです。あまりみかけないからこそ、どうしてもほしくなってしまう、あの "Honesty" が。
posted by 成瀬隆範 at 16:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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