Smoke Stings Studio > 文芸作品 > Smoke Stings Studio Blog

2008年11月28日

酒を飲んでいたから、俺は

「酒を飲まない理由など大してありはしないが、酒を飲む理由には、事欠かない」

こんな下らないフレーズ、一年のうちに、何度も使うべきではないのだが。

仕事を終えて家に帰ってきた自分を待ち受けていたのは、うまくいっていないの、という、ある女からの素っ気ない、携帯電話へのメールだった。

ただ単に、肩をすくめる他なかった。それは、もう、わかっていたことだから。たぶん、今日よりも、ずっと前から。

喜びと幸せの笑みを満面に浮かべながら、新しい旅立ちの報告を聞いたのは、そんなに昔のことじゃない。そして、新しく歩いていこうとしている道の険しさと厳しさを直感的にわかってしまったのも。

あの時。

あのとき、自分は、言うべきだったのだろうか。喜びに水を差すことがわかっていても。

過去へは戻れない。たとえ戻れたとしても、自分がその険しさを口に出したとしても、あの女は、そのまま先に進むことしか、考えなかったはずだ。だからこそ、言うべきでないと判断して、私は、喜びを共有しながら、あの女を送り出していたはずだったのに。

とりあえず、自分にできそうなことは、大してありはしない。したり顔でなにかが語れるような立場ではないし、だからといって、単に放置しておくことができるような、無責任でもいられない。

だから、とりあえず、酒を飲むことにした。

こいつは実に良い口実なんだ。酒を飲んでいたから、俺は、あいつのメールに、すぐには気づくことができなかったんだよ。
posted by 成瀬隆範 at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
RSS feed meter for http://smokestings.seesaa.net/styles-63486.css
0このブログのトップ
9Seesaaブログ

 

since 2004.10 : copyright 2008 (c) all rights reserved : Naruse Takanori @ Ace Art Academy エースアートアカデミー
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。