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2007年01月31日

居場所(私の居場所)

美大の小論文 参考作品更新。

イーゼルの向こう

 イーゼルのこちら側。それが、私の居場所だ。
 凛と張り詰めた空気。空気を震わせるのは、紙をこする音。鉛筆が触れ合う、乾いた音。それだけ。私は微動だにせず、一定の時間、ただの人形であり続ける。動作、という、動物に許された最大の価値をかなぐり捨て、じっと無機物のようにあり続ける。
 私は、描かれている。イーゼルが、描く者と描かれる者との間に隔たりを作る。真白な空白を、画家は自分の想いで埋めていく。
 時には優しく。時には大胆に。イーゼルの向こう側の画家が変わる度に、違った私が記録されていく。炭素と紙。ただそれだけで、様々な私がそこに現れる。
 私はたった一人だが、残される私はたったひとつではない。様々な紙に、キャンバスに、残された様々な私がどこかで生きていく。
 イーゼルのこちら側。たった一人の私から、様々な私が巣立っていく。そんな私の居場所。
posted by 成瀬隆範 at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月30日

時間

美大の小論文 参考作品更新。

落ち葉になる一瞬

 晩秋。樹々の葉が赤や黄色に染まる。来るべき冬に備え、樹々は染まった木の葉を落とし、地面を色とりどりの絨毯に染め上げる。
 落ち葉は、最初から落ち葉だったわけではない。最初は枝に宿された単なる葉として生まれ、そこで成長を重ねていく。春に芽吹き、夏に盛り、秋に色づき、そして、冬を向かえようとするまさにその時、落ち葉となって冬の当来を告げるのだ。
 枝から落ちる、その一瞬。ほんの一瞬の時間が、ただの葉を「落ち葉」に変える。ただの葉は、落ち葉という名を与えられ、樹ではなく、土を肥やすという新しい任務を帯びて、地面に到達する。私達はそれを踏み付け、落ち葉はだんだんと土と一体化し、バクテリアという微細な生物によって、土に還元されていく。
 今も私の頭上では、さまざまな枝が、至る所で落ち葉という瞬間の連続を、気紛れに生み出し続けている。
posted by 成瀬隆範 at 13:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月28日

記憶(記録)

美大の小論文 参考作品更新。



 誰もいない早朝、街の電柱の根元に積まれたゴミ袋の上で、小さな黒い影が振り向く。
 鴉。
 優しい朝の光、けだるい空気の澱みに停滞した街で、強靱な爪をアスファルトに叩き付け、無数の黒い影が廃棄物の山から山へと、面倒臭そうに飛び回っている。彼らは、いつだって我が物顔で、基本的には、人間を嘲っているのだ。
 人間は欲望のおもむくまま様々なものを作り出し、それに飽きてしまう。私達はそれをゴミ呼び、袋をかぶせ、パンパンに膨らませて捨ててしまう。ゴミには、人間の欲望がそのまま記録されている。しかし鴉は、人間がもはや見向きもしなくなった記録に、生命の最も根源的な意味を見い出し、それを食する。
 鴉には、人間にはもはや見えない真実が見えている。
 だからこそ我々は彼らを追い払う。そしてまた我々は、今日もゴミを捨てるはめになる。




喫茶店R

 神田神保町。久しぶりに、大通りを外れて裏路地に入ってみた。大通りの喧噪を外れた止まったような空気の中で、いつもあるはずのものがなかった。
 喫茶店R。常に私の中で「神保町」の一部を成す、なくてはならない存在。胸騒ぎ。走りたいような気持ち。閉まったガラス戸。その向こうにはもう誰もいない。
 数年前から、再開発が進んでいる地域である。事実、なくなってしまった店鋪も多数あり、代わりに新しい店舗が入っている。
 しかし、それはあの街には相応しいものではない。新しい店舗のほとんどは、大資本によって店舗数を拡大する大手企業の支店だ。そんな店舗なら、どこにあっても同じだ。別に、神保町になくてはならないものではない。
 どこにでもある置き換え可能なものが、どんどん置き換え不可能なものを食い潰している。私の知っている神保町は、もう、記憶の中にしかなくなってしまった。




わかる人はわかる。リメイクです。
posted by 成瀬隆範 at 14:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

美大の小論文 参考作品更新。

ざらついた記憶

 真っ白で綺麗なお皿が、恥をかいた。
 洗われたばかりの、純白のお皿。水滴が布巾で拭われ、ピカピカに磨かれて、料理が乗せられるのを、棚の奥で神妙に待っている。
 そのはずだった。
 しかしお皿が取り出された時、既に別の深皿に、キュウリとレタスの緑、トマトの赤、パプリカの黄色が、華やかに盛り付けられていた。つやつやの色。瑞々しく、新鮮に。
 取り出されたお皿は、期待した。自身の純白の上に色鮮やかな、別の料理が盛り付けられることを。ぴかぴかの白が、料理の色を際立たせ、さらにおいしく美しく、食べる人を魅了することを。
 裏返された。そこから全てが、狂いだした。
 蓋。ただの蓋。純白の皿は裏返され、極彩色のサラダにかぶせられた。剥き出しになった、かすれた小さな真ん中の円。艶やかな純白の裏側に、そんな荒れ切ったザラザラの面を剥き出しにして。




威厳

 大きく、どっしりと。すいかはそう育てられてきた。いっぱいの太陽を浴び、十分に水を吸い、自らの果肉に瑞々しさを蓄えながら。
 収穫され、店頭に並べられても、大きく、どっしり。他のどの果物も差し置いて、すいかはその威容と存在感を、辺りに見せつける。
 一人の少女の手に取られるまでは。
 網に入れられ、少女に浜辺へ運ばれたすいか。網から出され、照りつける太陽の下に置かれ、そのままじっと待ち続けた。無慈悲な棒切れによって、叩きつけられるように破壊されるまでは。
 ぱっくりと割られ、真っ赤な果肉が剥き出しになった。
 すいかは恥をかいた。大きく、どっしり。どうせ割られてしまうのなら、そんなものが、何の役に立つというのだろう。剥き出しの果肉。無秩序に散乱した、赤い果肉と黒い種。
 無防備になったすいかは、棒切れの衝撃のままに、真っ白な砂の上でふるふると震えた。
posted by 成瀬隆範 at 13:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

美大の小論文 参考作品更新。

失った嘘

 2進法。0と1との連続で決まる、コンピューターの言語感覚。
 ユーザーはコンピューターの画面を視覚的に捉える。私は自分の目で捉えるままに右手のマウスを頼りに、コンピューターを利用してあらゆる作業をやった。キーボードを叩き、マウスを動かし、クリックし、時にはその指示に従い、うまくやっていたはずだった。
 少なくとも、今朝までは。
 今朝。いつものようにコンピューターの電源を入れた。しかし、いつものような画面は現れない。いやな予感。冷や汗をかき始めた私の目の前の画面に表示されたのは、判読不能の、めちゃくちゃな文字列の連続だったのである。
 2進法。0と1との連続で決まる、コンピューターの言語感覚。私はその時、コンピューターが私に視覚的に嘘を吐き続けていたことを悟り、その嘘が、私をいかに助けてくれていたかを痛感した。




文字列の繋がり

 「メルアド、教えてくれる?」
 コミュニケーションとは、そうやって取るものだと、ずっと思ってきた。いつでも相手に繋がっていられるように、とりあえず携帯電話のメールアドレスを聞いておく。そうすれば、私と相手はいつでも繋がっていられる。なにかあったら、すぐメールすればいい。小さな機械の中に、私と、知人友人達との繋がりが、文字列の形式で集約されている。
 ずっと、そう思っていた。
 しかし、携帯電話は、いつからかずっと私に嘘をついていた。いくら送信しても、メールはすぐに戻ってきてしまう。その時、初めて気付いたのだ。携帯電話が繋げていたのは、私とあの人ではなかった。
 繋がっていたのは、無邪気な思い込みのまま生活を続けていた無知な私と、もう存在しなくなった抜け殻のようなあの人のメールアドレスという、無意味な文字列のデータだったのである。




化かし合い

 修正液。文字を書き損じた時に、上から塗り重ねて間違いを正すもの。しかし、修正液にはもう一つ、秘められた役割がある。
 それは、紙の嘘を、暴くこと。
 紙は白。文字は黒。ほとんどの場合、人はそう思って、紙に文字を書き続けている。しかし、それは大いなる欺瞞なのである。
 紙は決して、白くない。その中には微妙な濃淡があるし、決して白とは言えないような紙も多く存在する。それを白と思い込むのは、文字の黒とのコントラストがあるからである。
 だから修正液は、大半の紙よりも純白であることを要求される。修正液自身の欺瞞――ただ覆い隠しただけで、決して「修正」できていないことを感じさせないくらいの純白を。
 今日もどこかで、嘘の吐き合いが繰り広げられている。紙と文字と修正液。重ね合い、だまし合いの記録が今日も、残されていく。
posted by 成瀬隆範 at 13:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月26日

授業で、ふと

口をついて出た言葉。

「コンセプトレベルで優れているやつなんて、どこにだっているんだよ。」
「その優れたコンセプトを形にするための努力をするエネルギーを持っている奴と持っていない奴がいて、持っていない奴は、いつまで経ってもそのままなんだ。」
「ものを作る奴というのは、形にするための努力をする莫大なエネルギーを持っている奴なんだよ。」

と。

自省すべき言葉。授業をやっていると何よりも、自分自身のための勉強になる。
posted by 成瀬隆範 at 11:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 考える。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月25日

三澤 寛志 グループ展 のお知らせ

misawa.jpg

 仕事場の同僚であり、私が作品掲載ウェブサイト作成を担当している油彩画家の三澤 寛志がグループ展を行います。興味のある方は、是非お越し下さい。

関内アートスクール グループ展のお知らせ

横浜の 関内アートスクールで講師をしている作家の展覧会です。油彩/水彩/立体/素描など多彩で自由なテーマで個性的な作品の数々を展示します。横浜せんたあ画廊で行います。

期間:2007年2月4日(日)〜17日(土)
会場:せんたあ画廊 横浜市中真砂町3-33 関内駅前セルテ3階

サロン・ド・彩 メンバー(敬称略 50音順)
青木 宏之  大場 再生  北 久美子  栗原 比呂路 高岸 まなぶ  永井 朋生  畑中 義延  福井 欧夏 三澤 寛志  山羽 斌士  山本 明比古  山本 靖久
posted by 成瀬隆範 at 10:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月24日

僕の中の少年

僕の中の少年


僕の中の少年」を聴きながら、よくゲームブックをやっていた。猫の戦士は、いろんなところに旅をした。時には苦労をしながらも、自由にどこか遠くへ旅をすることができる猫の戦士が羨ましくてたまらなかった。

蒼氓。いまだに、琥珀色に光り輝いている。金属の金の色よりも、琥珀を透かしたときの金色を好んだ。

過去なんかに戻りたくない、のに、どんどん戻っていってしまっているような自分がいる。戻りたくない。戻りたくないと思っているのに。

もう二度と。自分でままならないなんて…。

☆recommend album: 山下達郎 "僕の中の少年"

posted by 成瀬隆範 at 10:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月21日

佐藤オオキ

posted by 成瀬隆範 at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 更新日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月20日

2007年01月18日

蛙の子は蛙っぽく

最近、あまり Smoke Stings Studio の更新をしていないのですが、まったく動いていないというわけではありません。

今まではずっとウェブ上にのみ自分の作品をアップしてきたのですが、今までに自分が作り出したものを紙媒体に変換しようかと思って、ちょこちょこ活動しているのです。とはいっても、別に出版するわけでもなんでもなく、自分のDTPデザインのスキルを上げるために自分自身のポートフォリオ作りを紙媒体でやってみようかと思い立ったわけです。

つい先日まで、職場の春期講習会のパンフレットのデザインに関わっていました。DTPデザインやってたわけです。一昨日やっと最終入稿が済み、あとは印刷されたものを待つ状態です。

蛙の子は蛙。自分の父親は損保のサラリーマンで情報処理の仕事をしながらもずっと出版に関わっていて、ことあるごとに出版関係に就職しろと口うるさく言われていました(結局私は予備校講師になったわけですが)。父親は売文と本の収集で出版に関わっていたけど、私はDTPデザインという視覚表現面を含めた関わり方になりそうです。職場のウェブサイト作成も担当しているから、結局情報処理的な作業もしているわけだし。

ってなわけで、しばらくは Smoke Stings Studio のウェブ上の更新は低調気味になるかもしれませんが、裏ではコンテンツのPDF化を行っていますので、活動自体はやっている、ということで。

もとはといえば笹沢左保と Mal Waldron の他界に端を発したサイトですが、それなりにコンテンツも充実してきているので、一旦区切りとしてみる気になりました。まだ中途半端で放ってあるコンテンツもあるのですが、そこはまあ、適当に、なんとかそのうち。

ちなみに、Ace Art Academy の方は継続して更新し続けるつもりですよ(だから、バイトB、はりきってよろしく。お前が頼みだ!)。
posted by 成瀬隆範 at 10:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月17日

望むべきもの

強く、濃く、繊細で美しい。そんな文章を書ける人間はめったにいない。

めったにいないからこそ、私は評価することを惜しまない。そして、たかだか受験程度のフォーマットに合わないからという理由で、低く評価されるなどということを看過できないのだ。
posted by 成瀬隆範 at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 考える。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月13日

いっ

担当していた仕事場のパンフレットデザインの仕事も一段落し、入稿済み。ここ数日、色々大変でしたよ。この週末は一日家で完全休息にします。
posted by 成瀬隆範 at 11:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月07日

琥珀色の液体

琥珀色の夢を見る

美しいと思えるのは、造形ではない。その造形を作り出した「ひと」の心意気だ。琥珀色の液体には、形がない。しかし、そこには味がある。形なき感覚。

形にすることは、切り取ろうとする努力そのものだ。しかし、感覚を切り取れるはずがない。切り取りきれないはずの感覚を切り取ろうとする足掻き、そして努力は尊いものだが、私にとっては、「形」を切り取って明確にすることよりも、感覚を切り取ろうとしないことの方により惹かれてしまう。

新しい土地に建てた蒸留所で、初めてできた新酒。ニッカウヰスキー。環境が与えてくれた豊かさに感謝し、作り出されたばかりの新酒を、まずは美しき水流に還元する。そこに竹鶴政孝の人間性と心意気が集約されているように思える。そのことを思った時、本当に久しぶりに、涙が流れそうになった。

美しい人間。形ではなく、その感覚。
posted by 成瀬隆範 at 21:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 文芸・話芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月06日

今日から仕事始め。

 なーんか、サイト運営関係、色々ほったらかしちゃったなあ、と、反省しました。

 けっこう自分勝手にやってるんだけど、クリスマスの日なんかは、検索だけで700人以上の方が、私のクリスマスソングの和訳を見に来てくれていたんだなあ、と。あんまり実感なかったけど、自分の作品(歌詞の翻訳)を700人の方が見てくれたってのは、感謝しなきゃいけないことですよね。

 もっとしっかりやらなきゃ。
posted by 成瀬隆範 at 10:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月01日

明けましておめでとうございます。

本年度もよろしくお願いいたします。本年度は、人生の転換期を経て具体的に方向を定め、動いていけるような年にしたいと思っています。
posted by 成瀬隆範 at 08:19| Comment(1) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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